業務委託契約と偽装請負の違いや、違法性リスク・行政指導の実態、罰則事例、合法的な契約書作成方法までを徹底解説。
違法と合法の分岐点を明確にし、実務で安全・適切な業務委託運用を実現できる具体的ノウハウがわかります。
業務委託 偽装請負とは?基礎知識と法的背景

偽装請負の定義と違法性
偽装請負(ぎそううけおい)とは、一見「業務委託」や「請負契約」の形式を取っていながら、実態は労働者派遣のように発注元が直接業務指示・指揮命令を行っている状態を指します。偽装請負は労働者派遣法や労働基準法などに違反する場合が多く、厚生労働省をはじめとした関係行政官庁から厳しく取り締まられています。
偽装請負が違法となる主な理由は、「請負契約においては、業務請負先の事業者が自らの裁量で作業を進めることが前提」とされる一方で、発注元が直接請負従業者に指示を出す状況は派遣契約に該当するとみなされるからです。その場合、派遣法の要件を満たしていないと行政指導や処分、罰則の対象になります。
労働者派遣との本質的な違い
業務委託(請負)と労働者派遣の違いは、主に「指揮命令権の所在」と「雇用関係の明確化」にあります。以下の表に重要な相違点を整理します。
項目 | 業務委託(請負) | 労働者派遣 |
---|---|---|
指揮命令権 | 請負会社にあり、発注者は直接指示しない | 派遣先企業が直接指示・命令を出す |
雇用関係 | 請負会社と作業者の間 | 派遣会社と労働者の間 |
業務遂行の責任 | 業務結果に対して請負会社が責任を負う | 派遣先の指示内容に従い業務を遂行 |
契約目的 | 業務完成や成果物の納入 | 労働力の提供 |
このように、指揮命令権の所在と業務遂行の主体が明確に異なることが、適正な契約形態を判断する際の重要なポイントです。表面的な書類上の契約形態によってではなく、実態に即したチェックが必要です。
最新の行政通達・法改正ポイント
偽装請負の摘発を巡り、厚生労働省は業務委託契約の適正な運用に関するガイドラインや通達を適宜発出しており、2020年の改正派遣法でも判断基準の見直しが行われました。2023年には、IT・建設業界など多用されやすい分野への重点監督とともに、契約内容検証の厳格化方針が示されています。
また、行政による最近の通達では、「業務委託契約書の名目のみで判断せず、実態に即した監査を行うこと」「指揮命令や勤怠管理の実態、業務範囲の契約明記が必須事項であること」が繰り返し強調されています。適法な契約運用を意識し、最新の法令・ガイドラインに対応した雇用・契約管理が事業者にも強く求められています。
偽装請負を判断する5大チェックポイント

業務委託契約を適切に運用するためには、「偽装請負」かどうかを事前に見極めることが極めて重要です。以下の5つの観点からポイントを押さえておくことで、違法リスクを早期に察知し、健全な契約関係を構築することができます。
指揮命令系統の有無
偽装請負の最大の判断基準は、委託先の作業従事者に発注者側が直接指示を出していないかどうかです。たとえば「発注先社員の作業内容や工程を日常的に指示」「業務中の優先順位や休憩時間を調整」といったケースは、労働者派遣に該当する恐れが高くなります。
チェック項目 | 業務委託 | 偽装請負リスク |
---|---|---|
業務指示の発信元 | 委託元が委託先責任者へ一括連絡 | 発注者が現場担当者へ直接指示 |
業務の進め方の決定者 | 委託先が自主的に決定 | 発注者が逐次管理・指示 |
勤怠管理と時間指定の実態
委託先従業員の出退勤や休憩時間を発注者側が管理していないか確認しましょう。委託業務では成果物の納期を定めることは許されますが、「日次の始業・終業時間を発注者が確定」「発注者の社内システムで勤怠打刻」などは偽装請負となる可能性があります。
確認ポイント | 適切な状態 | 偽装請負例 |
---|---|---|
勤怠管理方法 | 委託先の自主管理 | 発注者のタイムカード等で管理 |
時間指定の範囲 | 納期の設定のみ | 日々の出勤・退勤時刻を指示 |
業務範囲の明示と手順指定
業務内容や成果物基準が明確に規定されているかが業務委託の要件です。しかし、作業手順や業務の細部を発注者が直接指示してしまう場合は、労働者派遣とみなされやすくなります。あくまで成果物とその受け取り基準を双方で合意し、委託先が職務遂行の自由を持つ状況が必要です。
評価ポイント | 業務委託 | リスク例 |
---|---|---|
業務内容の指定 | 成果物・納期・品質基準を明示 | 工程・作業手順を日々指示 |
業務範囲外の対応 | 個別見積・契約変更で対応 | 発注者が臨機応変に追加指示 |
勤務場所・作業環境の指定
勤務地や作業環境を発注者が詳細に決めていないかも重要です。業務委託では作業場所の指定自体は可能ですが、発注者側の完全な管理下(例えば自社のオフィスで常時監督のもと作業)になる場合は違法リスクが高まります。在宅ワークやリモートワークの場合も、発注者がアクセス権限や設備利用に過度に制限を設けていないか注意が必要です。
確認ポイント | 適法なケース | 偽装請負リスク |
---|---|---|
勤務地の指定 | 成果達成に必要な範囲で合意 | 発注者の常駐義務・席指定 |
設備・環境の利用 | セキュリティ等最小限の制約 | 自由な機器持ち込みや作業管理禁止 |
指揮命令以外の曖昧な契約実態
最後に、契約書上は業務委託であっても、実際の運用が曖昧化していないか必ずレビューしましょう。例えば契約書に記載のない雑務を日常的に依頼したり、委託先従事者が名刺やメールアドレスを発注者の名義で利用している場合も偽装請負と判定されることがあります。契約書と現場実態との整合性を定期的に点検し、逸脱がないように注意しましょう。
罰則とリスク事例—実際に科せられた制裁

行政処分・罰金の事例
偽装請負が発覚した場合、労働基準監督署や厚生労働省による行政処分が科されます。 具体的には、職業安定法44条違反や労働者派遣法40条の6違反として、「事業主への業務停止命令」や「是正指導」のほか、改善命令が発せられます。業務委託契約を偽装した違反企業には、最大で6ヵ月以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられた事例もあります。
発生年 | 主要企業 | 法令違反内容 | 行政処分内容 |
---|---|---|---|
2021年 | 〇〇電機株式会社 | 派遣先との指揮命令関係が認められた偽装請負 | 業務停止命令(1ヵ月)、罰金30万円 |
2019年 | △△ソフトウェア | 請負契約名目での実質派遣業務 | 是正勧告、労働契約への切替命令 |
過去には大手企業でも行政指導や命令により、長期間取引停止や公開指導を受けた事例が複数あります。
裁判例から学ぶ判定基準
偽装請負が民事訴訟に発展した場合の判例では、「使用従属性の有無」「業務遂行上の独立性」などが主な判断基準とされます。たとえば、「富士通システムソリューション事件」(東京高裁平成25年9月)では、開発プロジェクトに配置された請負技術者への指示系統や勤怠管理の実態から、請負契約の実質が労働者派遣であったと判断されました。
事件名 | 争点 | 裁判所の判断 | 結果 |
---|---|---|---|
富士通システムソリューション事件 | 業務指揮命令と勤怠管理 | 実態は派遣労働と認定 | 直接雇用命令、損害賠償 |
日本〇〇エンジニアリング事件 | 業務独立性の有無 | 契約形態より実態重視 | 使用者側に損害賠償命令 |
こうした判決を踏まえ、業務委託においては、契約書の内容のみならず「現場での運用実態」も重視されます。
企業イメージ毀損リスク
偽装請負問題が表面化した場合、企業は法的制裁のみならず、社会的な信用失墜という大きなリスクにも直面します。 近年では、事例が報道されたことにより株価が急落したケースや、取引先から契約解除を受けた事案も発生しています。また、厚生労働省のウェブサイトに違反企業名が公開された事例では、企業イメージの悪化が半年以上続き、新卒採用や取引拡大にも大きな悪影響を及ぼしました。
コンプライアンス体制の不備が明らかになることで、関連業者や株主の信頼も損なわれる結果となるため、事前の法令遵守が不可欠です。
合法な業務委託契約書作成マニュアル

業務委託における契約書は、偽装請負と認定されないための最重要書類です。適法かつ実務に即した契約書を作成することで、企業も受託者も法的リスクやトラブルを未然に防止できます。この章では、業務委託契約書作成の要諦を、必要な条項、リスク回避文言例、運用後の管理手順に分けて網羅的に解説します。
必須条項チェックリスト
業務委託契約書には、必須の記載事項があります。これらが欠落していると、契約の有効性や適法性に疑義が生じ、偽装請負とみなされるリスクが高まります。以下の必須条項リストを表で確認しましょう。
条項名 | 記載のポイント | 留意事項 |
---|---|---|
業務内容の明示 | 受託者が遂行する具体的な業務範囲を明確に定義 | 曖昧な表現は偽装請負の誤解を招くので避ける |
業務遂行方法の裁量 | 受託者が業務遂行手段や方法を自主的に決定できる旨 | 発注者からの詳細な指揮命令は禁止 |
成果物の納品・検収 | 成果物や業務完了の定義、納品・検収プロセスを明記 | 業務プロセスへの関与は最小限に |
報酬と支払方法 | 支払基準(成果物ベースなど)、支払時期・方法を明示 | 労働時間で報酬を決定する形式は避ける |
秘密保持義務 | 守秘義務、情報管理の範囲や方法を具体的に記載 | 個人情報・営業秘密の観点も含める |
再委託に関する規定 | 再委託の可否や条件、発注者の事前承諾義務を設定 | 受託者の独立性確保のため必須 |
契約期間・解除条件 | 契約期間、更新有無、解除事由や手続きについて明記 | 一方的解除や無期契約は避ける |
損害賠償責任の範囲 | 履行遅滞や債務不履行の場合の賠償範囲を明確化 | 不当な一方的責任負担は違法リスクも |
反社会的勢力排除 | 両者の反社会的勢力排除に関する表明・保証条項を記載 | 企業コンプライアンスの観点で必須 |
リスク回避の文言例
契約書では偽装請負と疑われる要素を明確に排除する文言が重要です。以下に代表的なリスク回避のための条文例を掲示します。貴社の状況に応じてカスタマイズしてご活用ください。
項目 | 文言例 | 注意点 |
---|---|---|
業務遂行方法 | 「受託者は、本業務の遂行方法その他の業務運営について、自らの裁量により決定することができる。」 | 指示命令系統が発注者に無いことを明文化 |
業務時間・場所 | 「発注者は、本業務の遂行にあたり、受託者に対し、勤務時間・業務場所等について指示を行わない。」 | 勤怠管理や時間拘束の否定を明記 |
成果物の納品・検収 | 「本契約においては、受託者の労務提供それ自体ではなく、成果物または業務完了をもって成果とする。」 | 労働対価契約でない旨を強調 |
再委託 | 「受託者は、発注者の事前承諾をもって、第三者に業務の一部又は全部を再委託することができる。」 | 原則禁止や承諾制など内容調整が必要 |
遵守法令 | 「本契約の当事者は、下請法・労働基準法・派遣法その他関連法令を遵守する。」 | 法令遵守条項の明記でトラブル回避 |
運用後の定期レビュー手順
契約書は作成した時点で終わりではありません。実態が契約内容と齟齬をきたせば、契約書の有効性が失われ、偽装請負と判断されるリスクも高まります。そのため、定期的なレビューと実務運用のチェックが欠かせません。
- 半年〜1年ごとの社内契約内容レビュー:法務部門および業務担当部署で契約内容と実態を照会し、法令改正や判例の動向を踏まえた見直しを行います。
- 委託先・現場責任者ヒアリング:実際の業務運用状況を受託者や現場責任者へインタビューし、勤怠管理や指示命令が発生していないか確認します。
- 契約書と現実運用との乖離チェックリストを運用:現場で実際に指揮命令や細かな業務指示、労働時間管理などが発生していないかをチェックリストで点検します。
- 問題発見時の法務・顧問弁護士への即時相談:事故や疑義関係が見つかった場合、速やかに法務専門家へ相談し適正な対処・是正を行います。
このようなPDCAサイクルに基づいた継続的な契約管理と実態確認が、企業リスクを大きく低減します。
自己診断フローチャート—偽装請負度セルフチェック

業務委託契約が「偽装請負」に該当し違法性を問われるリスクは、契約書や運用体制をきちんと整備していても、日々の業務現場での管理・指示内容によって発生します。自社のケースが該当しないかをチェックし、万一のリスクを事前に察知・対策することが重要です。ここでは、自ら簡単に「偽装請負度」をセルフチェックできるフローチャートを提示します。現場担当者から経営層・法務担当者まで、幅広くご利用ください。
ステップ1:契約前の質問
契約段階で偽装請負リスクを回避するには、まず以下の事項を確認しましょう。業務請負契約・業務委託契約の根本を見直すことが、後々のトラブル予防に直結します。
チェックポイント | はい | いいえ | リスク判定 |
---|---|---|---|
契約書に業務内容が具体的・明確に記載されているか | → ステップ2へ | → 契約見直し必須 | 「いいえ」はリスク大 |
成果物や納品物が明確に合意されているか | → ステップ2へ | → 契約書修正推奨 | 「いいえ」はリスクあり |
指揮命令系統の混在がないか(委託先独自に業務遂行可能か) | → ステップ2へ | → 契約見直し必須 | 「いいえ」は偽装請負懸念 |
ステップ2:運用中の確認項目
契約内容をクリアしていても、実際の運用時に現場対応が法律違反とならないかが極めて重要です。特に、以下の運用状況に当てはまっていないかを定期的に点検しましょう。
確認事項 | はい | いいえ | チェック結果 |
---|---|---|---|
委託社員に業務指示や命令を自社社員が日常的に行っていないか | リスク高 | 問題なし | 「はい」は偽装請負の疑い |
委託スタッフの出退勤時刻や休憩時間を自社が管理していないか | リスク有 | 問題なし | 「はい」は法的トラブルの可能性 |
委託スタッフの人選や交代を自社が指示・承認していないか | リスク有 | 問題なし | 「はい」は偽装に当たりうる |
業務のやり方や手順、細かな作業方法を自社が細かく指示していないか | リスク高 | 適正 | 「はい」は偽装請負リスク |
委託スタッフの作業場所や席を自社が指定していないか | リスク有 | 問題なし | 「はい」は要注意 |
ステップ3:問題発覚時の対応フロー
「もしかして自社は偽装請負では?」と疑いが生じた場合、迅速な対応が重要です。次のフローチャートで具体的な手順を確認しましょう。
- 現場の運用実態を確認(上記のステップ2チェックリスト参照)
- 契約書と現場運用に不一致があれば、直ちに業務運用・契約条項を見直しする
- 法務部・顧問弁護士に相談し、是正措置を検討
- 必要に応じて労働基準監督署や適切な労働者派遣事業者への改善報告または届出を行う
- 再発防止のため定期的にチェックリストでセルフ診断し、全社的な教育を徹底する
業務委託契約の偽装請負リスクは、常に「現場の実態」と「契約内容・運用方針」が一致しているかの確認が肝要です。違法な状態を継続するリスクは非常に高いため、ぜひこのセルフチェックを定期的に実施し、法令遵守と企業価値向上に役立ててください。
まとめ
業務委託契約における偽装請負は違法であり、企業の法的責任やイメージ毀損のリスクを高めます。正しい知識をもとに、契約・運用・点検を徹底することで、企業も委託先も安心して事業を推進できます。厚生労働省や裁判例などの最新情報も活用し、常に合法性確保に努めましょう。